更新日:2016年09月16日
海苔にかける想い。/成清海苔店(福岡県)
福岡県南部に位置する柳川市。九州最大の湾である有明海を臨み、「有明海産海苔」と言えば全国的にも有名です。成清海苔店も、有明海産の海苔を使用する海苔屋さんの一つ。柳川の地に店を構える小さな海苔屋さんですが、海苔にかける想いはとっても大きいのです。
「この海苔美味しいなぁ。」
入社後初めて成清さんの海苔を食べた時、柔らかで、ふわ~っと口に広がる海苔の旨味と香りに感動した私。伺ったこの日、早速工場内に入らせていただくと、あの時と同じ海苔の磯の香りが部屋いっぱいに広がっていました。
たった1秒が海苔の味を左右する。
海苔は10月頃に網に種付けを行い、海の中で3月頃まで過ごします。その間、海苔は潮の干満差によって、海中に浸かる時間と海上に出ている時間の2つの時間を経験することになり、海の中では栄養を蓄え、海上に出ている時間は太陽の光を浴びて旨味を閉じ込め栽培されます。成清海苔店では、この有明海で育った海苔をセリで仕入れ、次のように加工していきます。
上記の工程の中でも、最も重要なのが②のわずか13秒の“焼き”の工程なのだとか。この13秒はあくまで目安。その日の海苔の状態や気温・湿度を見極め、少し厚そうな海苔であれば焼き時間を長くするなど、海苔の性格によって1秒単位で調節するそう。
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ベルトコンベアーに乗せ、「焼き」と「乾燥」を行います
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年季の入った乾燥機。この木箱に海苔を入れて乾燥させます
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海苔の色や厚みのチェック。試食も行い、その日の焼き時間を決定します
たった1秒焼きすぎるだけでも、焦げたような風味が加わり、海苔の美味しさが損なわれてしまうのだとか。海苔の味を左右するこの工程は、この道13年になる奥さんにもまだ任せられないそうで、社長である忠さんも「いまだに何年やっても同じ海苔はない」と語ります。
「見にこい」という言葉だけ。 頑固親父を見てぬすんだ技。
大学卒業後、家業を継ぐという選択肢は頭にはなく一度はサラリーマンの道を選んだ忠さん。ですが、偶然参加した、宅配グループ主催の海苔見学ツアーのお手伝いをきっかけに、家業や地元の海苔に対する意識が変化したそう。この出来事をきっかけに、脱サラし家業を継ぐことを決心したのです。帰郷した当初は、海苔に関しては素人同然。さらに、初代でもある父・忠蔵さんは寡黙な父親だったそうで、海苔に関して指導されたことはないのだとか。「父は何も教えることはなく、ただ「見にこい」と言うだけだった。」と少し懐かしむように笑う忠さん。
当たり前のものを食わしてやりたい。
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成清さんご夫婦
この日お話を伺う中で、忠さんが何度もおっしゃっていたのが、「子供に当たり前のものを食わしてやりたい」という言葉。成清海苔店では、海苔の病気を防ぐための酸処理をしていない「秋芽一番摘み海苔」のみを使用しています。海苔業界に入った当初は、酸処理なんて、自然界で起こりえないことをしていることに強い反発心があったそう。けれど、漁師さんたちと腹を割って話すようになった今、漁師さんたちも、1つ作業工程が増え手間となる酸処理は出来ればしたくない作業。ですが、海苔が病気になれば、漁師さんたちの生活は本当に苦しいものになってしまう。という現実も理解が出来るようになったと語ります。そんな中、成清海苔店が酸処理のしていない「秋芽一番摘み海苔」にこだわる理由。それは子供たちに「当たり前のものを食べさせたい」という想いからなのです。