更新日:2016年03月04日
誰もが有機野菜を食べられる時代を/久木田農園(鹿児島県)
「有機野菜は高い」
その常識を打ち破ろうと、農業経営を行う若き生産者がいます。鹿児島県にある久木田農園2代目、久木田大和さん。
昭和55年から営んできた有機栽培の農場・久木田農園を父から受け継ぎ、農業法人の代表として、日々奮戦されています。穏やかで優しそうな人柄に見えますが、取材中、久木田さんの話を聞くにつれ、「こういう方が、農業の流れを作っていくのかな」と感じるほど確固たる将来観・農業観を持ち、静かな情熱を内に秘めたエネルギッシュな方でした。
秋川牧園との出会いは、有機農業を営む若い人でネットワークを作ろうと発足した「九州・山口若けぇもんの集い」に参加したのがきっかけです。「考え方がしっかりしている」「プロ意識が高い」「間違いないものを作るだろうな」というのが青果担当者の久木田さんの第一印象。そんな生産者の人参も現在お届けしています。
たったの3日!?秘密のゴムシート
人参畑を見ると…。
「やっぱり雑草との戦いは宿命なのでしょうか?」とお伺いすると「人参がある程度育てば問題ないですけどね。除草は一番労力・コストがかかるところですけど、それもやり方次第だと思っています。今、さつまいも畑のほうで除草作業中なので見てみますか?」と声を掛けられたので、行ってみると黒マルチの間の畝部分に黒いゴムシートが敷いてあります。
「普通に草取りをしていたら2週間かかる面積ですが、この遮光性のゴムシートなら、シートの設置と撤去だけすればいいので、1シーズン3日で済みます。」有機栽培だからといって手間を掛ければいいわけではなく、いかに省力化していくかが久木田さんの農業です。どうすれば省力化できるのか、日夜勉強に励む原動力となっているのは、ある「夢」でした。
有機栽培= 『特別なもの』から『身近なもの』へ。
「夢は誰もが手軽に有機野菜を買えるようにすることです。そのために、スーパーでの取扱いを増やせたらと思っています。日本の有機野菜の流通量は0.2%、ヨーロッパは5%です。いかに有機野菜が少ないか。今は専門店に足を運ばないと買えません。スーパーで置いてあってもほんの少し。病害虫被害のリスク回避で少量多品目栽培の生産者が多いので、スーパーにおいてもらおうとすると、納品する量が足りないといわれます。それに安定してスーパーに納品できなければなおさら、スーパーも取り扱いづらいというのも一つの要因です。その課題を克服してスーパーでの有機 野菜の販売を増やして、一般の人が手軽に手に取れるような環境にしていきたいのです。」
そのための第一歩が省力化と安定生産が課題という久木田さん。「もしそれが出来たら面白い。有機農業がきちんとビジネスとして成り立ち、モデルケースを作り上げることが出来ますから。」と静かに語ります。今はそのために土地を少しずつ広げているそうです。
『有機栽培=特別なもの』から『身近なもの』へ。それは久木田さんだけでなく、他の有機生産者、そして有機野菜をもっと手軽に食べたいと思う消費者の願いでもあります。
「有機農業をやってて嬉しいことは、虫が自然にたくさんいること。でも、もうちょっと少ないほうが良いなぁ(笑)。つらいことは草や病気を抑える難しさ。農薬をまけば一発で終わるけれども、使わずして抑えるにはどうすればいいのか…。方法がなくて収量が落ちてしまうこともあります。そんなときは仲間に相談してみます。難しいことだらけです。」はにかみながら、そう語る久木田さんの目は、それでもまっすぐ将来を見据えています。
「30年後は農薬を使わない農業が普通になっていると思います。今までは規格どおりの見た目の綺麗さが必要でしたが、最近はマルシェや直売所など、農家と消費者が直接やり取りできる機会も増えてきて、価値観は広がっていますし。それに農薬もコストの一つですから。」これから有機農業をビジネスとして成功へ導き、農薬を使わない農業を作り上げていくのは、久木田さんのような情熱ある生産者。農業の新たな形が広がっていく未来に、胸が静かに躍動した取材でした。