更新日:2017年10月07日
あなたの畑・あなたの牧場がここにある(アグリロハス10月号)
ポストハーベスト無農薬トウモロコシ、いかにして日本へ輸入するのか?
9月号では、ポストハーベスト無農薬トウモロコシの栽培をどのように実現したのか、お伝えしました。今回は、そのトウモロコシを日本までどのようにして運ぶのか、という難題を実現するまでの軌跡をお話してまいります。
ポストハーベスト無農薬トウモロコシの保管
世界の穀物のそのほとんどが一年一作、トウモロコシも、一年に一度しか収穫できないのがその常です。秋に収穫された穀類は、長い物は夏を過ぎて一年間も保管される訳で、なにも対策を施さなければ、コクゾウ虫等の害虫に食い荒らされることになります。そのため、日本へ輸入される穀物のほとんどがポストハーベスト農薬(収穫後の保管中に防虫対策等で混入される農薬)が使用されてきた実態については、9月号でお伝えしました。
食の安心安全のため、農薬を使わないで穀物を保管するには、打開策として穀物の水分を落とすことが肝要。そのために、米国のトウモロコシ農家へ保管タンクへの送風管理が大切であることを説得してゆきました。こうした技術指導を徹底して行うことで、ポストハーベスト無農薬のトウモロコシの歴史的な成功に繋がることとなったのです。
輸送手段確保へ
さて、そのポストハーベスト無農薬のトウモロコシの保管問題が解決したとしても、次の課題、どのようにして分別して日本へ持ち帰るのか?ここが難題でした。米国はトウモロコシの最大の輸出国、米国中北部がその中心的な産地です。最大の産地、イリノイ、アイオワ州の調査行から、さらに、ミシシッピーの河下りを体験、そして、大型穀物船に積み込まれるまでの輸送ルートの開発に挑むことになります。
米国中北東部の肥沃な大地で育てられたトウモロコシは、ミシシッピー河のリバーエレベーターまで30トンのトレーラーで陸送されます。そこで、バージと言われる1,300トンの箱船にバラ積みされるのですが、実は、そのバージにはエンジンが付いていません。バージを10隻程度、ワイヤで連結し、1台の大型エンジン付のボートで引っ張るのでなく、押して、河下りが始まります。やがて、米国中部の大都市、セントルイスまで下れば、そこで30隻ものバージが連結され、それを、1台の動力船が押して、巧妙な河下りが続くのです。それは、39,000トンもの大量のトウモロコシが、たった1台の動力船で河下りする光景は、なんと勇壮で、なんと効率的な輸送方法だと、感心させられたものです。この河下りの終着点、それが大西洋につながる大都市、ニューオリンズ。そこは、古きスペインとフランスの余韻が残り、また、ジャズで賑う港町です。
米国最大の穀物輸出港でもあるニューオリンズには、当時は13もの積み出し港がありました。そこでは、50,000トン級の最大のバラ積貨物船が河口に横付けできるのです。私たちのトウモロコシを運ぶこととなる穀物輸送船(パナマックス)は、カリブ海を経て、パナマ運河を通過し、約1ヶ月もかけて日本の港に穀物を運んでいるのです。
当時は1980年代、我々のパートナーで主要な提携先である生活協同組合の方々と協力して、この歴史的なポストハーベスト無農薬のトウモロコシを日本へ持ち帰ることに、情熱を強くたぎらせていました。当時、私たちの飼育規模から考えると、1階の積み込みで4,000~5,000トン程度が適量なのに対し、穀物輸送船(パナマックス)は最大積載量は50,000トン。しかも、間仕切りした船倉は、一つの仕切りは9,000トンと、私たちの必要量の倍。そこで、ハッチを木製のパネルでさらに仮仕切りすることで分別輸入の方法を確保しました。
港の積荷でさらなる課題が
さらに難題が続きました。ニューオリンズ港の積荷の仕組みに関してです。バージで到着したトウモロコシは、一旦は港の大型サイロに保管され、そこでブレンドされて、本船パナマックスに積み込まれるため、他のトウモロコシと混ざってしまうというものでした。これでは、ポストハーベスト無農薬トウモロコシを、分別して日本へ持ち帰ることができません。そこで、13ヶ所もある港を片端から回り、遂に、バージから本船に直積できる港を見付け出すことができたのです。
「これで、ポストハーベスト無農薬トウモロコシを、日本に持って帰れる。」
思わず同行した息子と二人で万歳を叫びました。私たちのニューオリンズでの世紀の快挙でした。
この街は、巨大な穀物の港町、多くの積み込みがあり、トウモロコシの皮屑が、粉になって飛散し、ミシシッピーの河面に舞い降ります。そのご馳走をお目当てに、何千というナマズが河面に顔を出し、大きな口を揃えて開けて、河に浮かんだトウモロコシの皮を飲み込むのです。このナマズ、現地ではキャットフィッシュと呼ばれていますが、なぜ、口を開けるタイミングが、そんなに揃うのか?ナマズのユーモラスな顔と、大きな口、いつまでも、忘れられない光景となりました。
では、11月号でお会いしましょう。