更新日:2017年03月29日

あなたの畑・あなたの牧場がここにある(アグリロハス3月号)

無投薬飼育の歴史的誕生の秘話

飼料用米への挑戦についてお伝えしてまいりました。今号では秋川牧園の立ち上げから安心・安全な食べ物を実現するために追い求めた無投薬飼育が成功するまでの歩みを改めて振り返りたいと思います。

 

マイコプラズマとの苦闘の3年間

1972年の夏7月、私と家内と子供2人、廃墟の養鶏場の中で立ち尽くしていました。その養鶏場は、1962年に共同養鶏場として建設され、11人のメンバーで運営されていました。

折しも、その時期は、零細な農家養鶏を脱却して、日本の養鶏の多羽数化により、コスト競争力をつけるという大競争時代にあり、鶏舎の中の鶏を入れるケージの空室のロスを極少化するため、当然ながら、淘汰した鶏の後には、新しい雛を入れて鶏舎の稼働率を上げるという手法が採られていました。

その結果として、例外なくマイコプラズマ呼吸器症が蔓延、産卵成績は低下、雛の育成率もどんどん悪化して、日本の、いや、世界の養鶏と同じ運命の中で、その養鶏場も廃業せざるを得ませんでした。なんとか、世界の養鶏場が、そして日本の養鶏場が辿った悲しい運命を変えるような技術革命ができないものか?

この世界に先駆けた私の挑戦は、十分な資金の用意と豊富な技術研究陣に支えられて完成されたものとは程遠い、家内との2人での、どん底の貧困からのスタートだったのです。

近所の農家のお母さん方の応援も得て、なんとか、廃墟となった養鶏場の除糞作業と、鶏舎の洗浄消毒作業を終えて、2万羽の養鶏場で僅か200羽から始めた無投薬飼育、その時、鶏を入れたケージの場所も、今も、鮮明に覚えているのです。4p2 agurirohasu

同じ家畜でも、牛や豚の仕草と、鶏は違います。鶏は視線を変える時、ゆっくり首を向けるということはありません。パッ!!と瞬間移動するが如く、敏捷にこちらに視線を向けるのが、鶏の特長なのです。それなのに、この日の朝は、ゆっくり、ゆっくり、入口の私に視線を向けた…、ということは…鶏たちが元気がないということです!!私は心臓の動悸が高鳴るのを感じながら、踵を返して家に戻り、注射器や検定液をとり出して鶏舎に急ぎます。

鶏の羽の下から採血してガラス棒で混ぜて行く中、1羽、1羽、凝集反応が陽性に…、遂に1番に心配していた、マイコプラズマ症の発症の瞬間でした。さあ、大変です。まずは、この3000羽を、養鶏場の外に出さないと、他の鶏に感染してしまいます。そこで、この3000羽を処分し、隣の鶏舎、そして外の鶏舎に感染していないか? 胸どきどきの中で、毎日のように採血検査を続けました。

結局、隣の鶏舎にも陽性鶏が出るに及び、このマイコプラズマ症を完全に駆逐するまでに2年近くも要し、いかに、無投薬飼育が難しいものであるかを思い知るものとなりました。ようやく順調に鶏を増やし始めて、少し心の安らぎを感じ始めた頃、天気のよい朝のことでした。 いつものように、鶏舎の巡回を始め、3000羽の平飼鶏舎の七号舎の扉を開けた時、「あれ!!」と思わず大きな胸騒ぎを覚えたのです。

 

難攻不落のコクシジゥム症 ~偶然の発見が奇跡を呼ぶ〜

さて、もう1つの難敵、コクシジゥムとの対決です。コクシジゥムは、1番に酷いのが、アイネリア・テネラという、鶏の盲腸につく感染症。30~50日令の雛に多発するのですが、これが発症すると鶏舎の中は血便だらけとなり、放任すれば、半分以上が死んでしまうという代物なのです。

さて、私は、このコクシジゥムをどのようにして克服したのか? 今、数えてみても、自らで60種ものプロジェクトを考え、挑戦した記憶が甦ります。コクシジゥムの原虫は、鶏の糞便を希釈して顕微鏡で丁寧に見て行くと、400倍の倍率で検出することが出来るのですが、その原虫が、相当に増えた段階でないと発見できない、しかも、種類が多い原虫の中から、病原性のあるものを、早期に見付けることがとても困難だったのです。

ある日、遠心分離機の回転数を数多く変えて行く中で、ある回転数に合せたところ、見事に原虫を集めることができ、1グラムの糞便中に1個程度の原虫でも検出でき、そのタイプを特定できるようになった瞬間に恵まれました。この遠心分離器の適正回転数の発見は、忘れることができないものとして、印象に残っています。

 

世界に先駆けた無投薬飼育の成功

試行錯誤と失敗を重ねること約七年目頃から、無投薬飼育の成功例が続き始め、遂に、1980年、今から37年前に、鶏(採卵鶏、肉用鶏)の無投薬が、安定的な技術としてその成功宣言を掲げることができたのです。専門家たちの多くには、私の無投薬飼育の成功を信じていただけない時期も続きましたが、それは、また、無理のないことでもあります。世界のだれもが不可能と思っていたのですから…。その後、世界の養鶏界を回る多くの機会を得た中で、やはり、この無投薬飼育の成功は、世界初の快挙だったと、今でも自ら信じているものです。

では、皆さん、4月号でお会いしましょう。

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